トニーの命日に寄せて

トニーこと赤木圭一郎さんとの共演は、数えるほどでした。その中でも1960年に公開された「邪魔者は消せ」は、トニーが主演する作品での共演でしたので代表作といえるものです。当時はトニーも私も多忙でしたので、時間が惜しくNGを出してはいけないという一心で演技に臨んでいたのを覚えています。トニーファンの方からは「海辺のラブシーンはどんな感じだったのか」と、よく訊ねられますが、実際には寒いし、NGは出せないしで、浸れるほどの余裕はなかったのです。そんな裏話をしてしまうと、夢を壊してしまうかもしれませんね。あるいは、お互いに恋愛感情があれば、もっと良いシーンになっていたかもしれません。けれども、二人に期待されるようなものは何もなかったのです。

ところで、トニーとは自宅が近かったことから、彼と同居していたトシ坊(杉山俊夫さん)も含めて何かと3人で集う機会がありました。通勤も私の迎えの車で2人をピックアップすることもしばしばありましたし、タイミングが合えば3人で帰ることもありました。私たちは同世代ですし、仲の良い友達だったのです。自分で言うのもなんですが、私の性格はさっぱりとしていて、どちらかといえば男の子っぽい雰囲気でした。ですから、彼らは私と居ても気が楽だったのかもしれませんね。

ところで、その頃はすでに小髙と交際をしておりましたが、奇遇にも小髙の父とトニーのお父様とはとても親しい間柄でした。お二方は大学時代の学友で、共に歯科医だったのです。そんなことから何かとトニーのお父様のお話を伺う機会もありましたし、小髙も私もトニーとは身内のような感覚で接しておりました。ご実家にも伺ったことがありましたが、その時は美しいお姉様とお妹様もいらっしゃって、とても和やかで素敵な雰囲気でした。トニーの優雅な振る舞いや、照れ屋さんの少しはにかんだ笑顔の輝きは、この素晴らしい家庭環境の中で育まれたものに違いありません。

一方、トニーには独自のスタイルがありました。面白いことに、わざとセーターを裏返しに着てみたりするのです。あるいは、セーターをマフラーみたいにしてみたり、寒いのにわざわざ靴の踵を踏んづけて、スリッパみたいに履いてみたり…。そういえば、赤い色のセーターをよく着ていたのを覚えています。当時は、今みたいに何でもありの時代ではありませんでしたから、彼の独特なスタイルすべてがとても斬新に見えました。おそらく、他の人が同じようなことをしても格好良くは見えなかったでしょうね。スターになる人は、やはり持っているものがどこか人とは違うのです。

もしも、トニーが生きていたらその後の映画界はどうなっていただろうか、と考えることがあります。もしかすると、日活はそこまでテレビに圧されることなく、勢いも衰えなかったのかもしれません。なにしろ日活には、裕ちゃんとトニーの二大スターが在籍しているのですから。そうなれば、私はもう少し長く日活にお世話になっていたのかもしれません。考えるほどに、ファンはもちろんのこと、俳優仲間も皆が注目し、今後が期待されていた人は当時、トニーを置いて他にはいなかったのではないでしょうか。

それにしても61年前の2月14日の事は、決して忘れることができません。トニーの乗ったゴーカートが、撮影所の扉に激突した時の衝撃音は、今でも生々しく耳に残っています。その時、わたしは撮影所の2階の控え室におりました。もの凄い音がしたので、2階のベランダから見下ろしたところ、事故現場に一斉に人が押し寄せているところでした。何が起こったのか、その時は全くわかりませんでした。しかし、すぐさま「トニーがぶつかった!」などという怒号が聞こえてきて初めて、トニーが事故に遭ったのだとわかったのです。

その一週間後、トニーはこの世を去りました。あまりにも突然で、にわかに信じることができませんでした。葬儀に一緒に参列した芦川いづみさんと私は、ショックと悲しみで涙が止まりませんでした。そんな悲嘆に暮れる中、トニーのお母様が気丈にも「人間は一度は死ぬのですから、そんなに悲しまないでくださいね」と、涙も見せずに優しく私たちを諭してくださったのがとても強く印象に残っています。愛息を亡くされて一番お辛いはずなのに…。私たちに前を向いてほしい、という強い願いが込められていたのだと思います。その日は、私たちの悲しみに濡れた暗い気持ちとは正反対に、青空が眩しいくらいの晴天でした。きっと、トニーも天上から、あの、はにかんだ笑顔で私たちを見つめ、励ましてくれていたのかもしれません。

トニー、たくさんの思い出をありがとう。あなたの笑顔は、61年も経った今でも、私たちの思い出の中に色鮮やかに生き続けているのです。

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