詩 「いのち微笑む」

あなたの

毎日の微笑みは

私のともし火

あなたの

ひとすじの気持ちは

青空のようだ

海原のはるか

いのち微笑む

小髙が書いたこの詩は、私たちの半生記「いのち微笑む」(2000年)のタイトルになったものです。葉山にいた頃の作品です。俳優業を断念し、海辺での療養生活の中では数々の詩や俳句が生まれました。ことのほか膵臓の病が重く、救急車で搬送されることもしばしばありましたが、詩を書くことは決してやめませんでした。役者を断念しても表現者として生きていたかったのです。小髙にとって詩を書くことは、生きることそのものでした。

ところで、著書「いのち微笑む」の出版までの道のりは容易くありませんでした。実は、学研の木村編集長からのお声がけをいただいた当初、私たちは乗り気ではなかったのです。煌びやかな世界から離れ、病気と闘う夫とそれを支える妻の日常生活を赤裸々にしたところで、世の中の一体、何の役に立つのかわからなかったからです。それでも、私たちの生き方に共感を覚える方がいるのではないかという期待と、闘病の道半ばではあるけれど二人の半生を振り返ることは、残された時間をより豊かに生きるためにも必要だと考え、半生を纏める決心をしたのです。

この本は、二人の出会いからそれまでの記録について日々記していたものを編集したものですから、今読んでも生々しく記憶が蘇ります。また、随所に小髙の詩が織り込まれており、その時の心情が詩を通して読み取れるのです。詩の選定から編集まで細心の注意を払い時間をかけましたから、出版までに三年余の歳月を要しました。お陰で小髙も精魂を使い果たし、三年で体重が7、8キロも落ちてしまいましたが、充実感に漲っていたのを覚えています。産みの苦しみではありませんが、この本は二人にとって大事な子供のような作品になりました。

さて冒頭の詩ですが、闘病の最中に書かれたものでした。小髙の私への感謝の気持ちと、限りある命の大切さを謳ったものです。実際、病との闘いの辛さは想像を超えますが、それを支える側も大変なものでした。そんな中、わたしたち夫婦は言葉を交わさずとも、詩を読むことでお互いの理解を深め合うことができたのです。

振り向けば

とても幸せな歳月でした

青空はひとすじに

青ければいいーーー

皆様に

心からの感謝を込めて

(2000年9月18日)

出版から16年後、小髙は千葉の大海原に抱かれるように、静かにこの世を去りました。

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