追悼 中山英子様

ひぃちゃんこと中山英子さんは、私と50年以上苦楽を共にしたパートナーでした。彼女が二十歳を過ぎたくらいのタイミングで、世田谷の家の家政婦として来てくれたのがきっかけで、長きにわたり小髙と私を支えてくれました。世田谷では通いでしたが、葉山からは同居をして私たちのお世話をしてくれていたのです。葉山から千葉、そして今回、北海道までついて来てくれました。血縁関係は全くないのですが、親きょうだいよりも長く一緒に住んでおりましたので、家族以上の関係と言っても良いくらいです。

ところで、小髙は病弱で十代の頃からあまり長生きができないだろうと言われておりました。俳優座でも舞台での埃に耐えられず日活に籍を移しましたが、多忙と飲酒で更に体調を悪化させてしまい、終には俳優業も断念することになってしまったわけです。その間も余命宣告を受けておりましたが、結果的に長生きができたのは、私の献身というよりも寧ろひぃちゃんが漢方などの勉強をして、その時の体調に合った漢方と食事療法を実践してくれたお陰だと思っています。もちろん、自然の中に身を委ねた暮らしの中でしたからより一層、その効果も発揮されたのかもしれません。いずれにしても、彼女なくしては私たち夫婦もそれまで円満に健康的に暮らすことはできませんでした。

話は遡りますが、世田谷時代は小髙もまだまだ俳優として活躍しておりましたし、私も日活から離れて忙しくしておりましたので、身の回りの事など一切をひぃちゃんにお願いしておりました。また、小髙と私がそれぞれロケーションで家を空けることがあっても、彼女がしっかり留守番をしてくれましたので、私たちが居なくても俳優仲間が訪ねて来られたのです。大蔵の撮影所からも近くて便利な場所だったため、葉山良二さんなんかは撮影の合間にでも、私たちが留守にしていようがいまいが気軽に昼寝しに来ていました。「なにか食べるものない?」などと言って、ひぃちゃんにリクエストして作ってもらったりもしたそうです。

そんなわけで私たちの仕事仲間にも親しまれていたひぃちゃんでしたが、後半は私のマネジメントも手伝ってくれました。彼女はとても聡明でしたので、仕事の取次などもしてくれていたのです。ロケーションにもついて来てくれましたし、本当にいろいろなことを器用にこなしてくれました。私は十代のころに家を出て仕事ばかりしてきたので、恥ずかしながらあまり家事をやってきませんでした。それにマネジメントも人任せでしたから、本当にできることが限られていたのです。ですからひぃちゃんに頼ることがどうしても多くなっておりました。

小髙が亡くなってからの生活でも、私をしっかり支え続けてくれました。千葉の田舎では暮らし難くなると考えて思い切って北海道に戻って来ましたが、私の暮らしが落ち着くまで一緒にいてくれるということで、わざわざついて来てくれたのです。彼女のご実家は栃木県ですが、いつでも温かく受け入れてくれる家族があるのにも関わらず、遥々北海道まで一緒に来てくれました。そこで、こんな私の為に献身的になってくれた彼女へのご恩返しの為にも、なんとかしっかりと生きていかなければならないと意を決して、ちょうど一年前から活動を再開することにしたわけです。ひとえに、ひぃちゃんの幸せな笑顔を見るために…。何としても彼女にはもっと幸せを感じて欲しかった。あの葉山での素晴らしい暮らしを心の支えにして、ここまで苦労してついて来てくれた気持ちに何とか報いたかったのです。

しかし、残念ながらそれも叶いませんでした。六月半ばに、あっという間にこの世を去ってしまったのです。三ヶ月間、病魔と必死に闘ってきましたが、とうとう力尽きてしまいました。享年74歳、あと数日で誕生日を迎える時でした。亡くなってからのこの二ヶ月余りの間、彼女のことを思い大変辛い日々を送ってまいりました。六年前に夫に先立たれた時も辛かったのですが、それ以上の悲しみに襲われました。あまりにも突然過ぎて、覚悟をしていなかったからかもしれません。なぜ年上の私を置いて先に逝ってしまったのでしょうか。正直に言って、彼女の死のショックから未だ立ち直ることができないでおります。でも、それでも、わたしは生きていかなければなりません。

その間、歯を食いしばって毎日のInstagramの更新も、欠かさず行ってきました。実際、彼女が亡くなる数日前に沢本忠雄さんの訃報が届き、衝撃を受けていたばかりだったのです。長く生きておりますけれど、こんなに辛く悲しい事が重なる事は滅多にありませんでした。このような状況の中、Instagramのフォロワーの方の存在が心の支えになりました。毎日のコメントが本当にありがたく、落ち込んでばかりはいられないと奮い立たせてくれているのです。辛い事は重なりましたが、活動を再開してよかったと思っております。本当に感謝の毎日です。そして自分ができる事は何なのか、改めて考えさせられております。命ある限りは一生懸命に生きていかなければならないからです。

※昨年の九月から毎週月曜日に投稿してまいりましたが、少しの間お休みすることにしました。また気持ちを新たにしてから再開いたします。

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